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「持続可能なリサーチ」って、どんな姿をしているだろうか

2026.2.10

~社会参画と価値共創の視点から紐解く、10 Inc流・少し愛があって、少し皮肉なリサーチ論~

こんにちは、10 Inc. PRです。
本記事では、近年あらためて議論が活発化している「持続可能なリサーチ」というテーマについて、10 Incの視点から一歩踏み込んで考えてみたいと思います。

なぜ今、「持続可能なリサーチ」なのか

2025年のJMRA(日本マーケティング・リサーチ協会)アニュアル・カンファレンスでは、ある切実なテーマが共有されていました。
それは、華やかなAI活用の未来像ではなく、「インターネット調査の品質低下」「モニターの枯渇」といった、業界の足元を揺るがす課題です。(参照:日経クロストレンド「モニターの『ネットリサーチ離れ」が深刻』)
「このままのやり方で、リサーチという営みは本当に持続可能なのか?」
そんな危機感から、「インターネット調査サステナブル宣言」といった議論まで生まれています。
こうした流れ自体は、極めて真っ当で、必要不可欠なものです。一方で、私たちは会場の片隅で、こんな違和感も覚えていました。

“持続可能性の議論が、あまりにも“リサーチする側の論理”に寄っていないだろうか?”

そこで本稿では、「負荷軽減」や「不正対策」といった重要な論点を踏まえつつも、回答者・モニターという存在をどう捉え直すかという視点から、持続可能なリサーチを考えていきます。

「マイナスを減らす」だけで、未来は守れるのか

現在、リサーチ業界で主に進められている対策は、大きく分けて2つです。
● 不正回答やボットを検知・排除するための品質管理
● 調査票を短くし、回答負荷を下げるための設計改善
これらは、いずれも必要不可欠な取り組みです。回答者の時間を尊重し、真剣なデータを守ることは、業界としての最低限の責務でしょう。
ただし、ここで一つだけ問いを投げかけたいのです。

“「不快な要因を取り除いた」だけで、人はその場に留まり続けてくれるのでしょうか?”

「苦痛ではない」ことと、「参加したい」ことは、イコールではありません。今の議論は、いわばマイナスをゼロに戻す話に留まっているようにも見えます。しかし、ゼロの状態は、必ずしも“魅力的”とは言えないのではないでしょうか。

リサーチは、本来もっとエモい営みだったはず

リサーチとは本来、
● 企業が「より良いものをつくりたい」と願い
● 生活者が「より良い暮らしをしたい」と願う
その2つをつなぐ、価値の循環装置だったはずです。

しかし現実には、
● ポイントのために淡々と回答する人
● 効率よく“稼げる案件”だけを探す人
このような人が増え、「真面目に答える人ほど疲弊していく」構造が生まれています。これは、回答者を“協力者”ではなく、“リソース”として扱ってきた結果なのかもしれません。

データで見えてきた、もう一つの可能性

ここで、10 Incが運営する常設リサーチコミュニティ「トイロカフェ」で実施した調査結果をご紹介します。
分析から浮かび上がったのは、回答者の中に確かに存在する、もう一つの層の姿でした。

Q.一般的なアンケート協力(ポイ活としてのアンケート回答も含む)を、どのくらいの期間行っていますか? N=289

彼らは、アンケートを単なる「作業」ではなく、

自分の意見が社会に反映されることへの誇り
「実際自分の意見を言ったものが商品化されて世の中に出た時。例え自分の意見が通ってなかったとしても、その商品に関われたことに誇りを持てる。親近感がとても湧く」(40代・女性)

企業と本気で向き合っているという実感
「企業が本気で私達の声を聞きたいのだなと思うときはかなり真剣になって取り組みます。質問の内容により、回答者の意図や傾向を知りたがっているんだなと思えるときに、『ちゃんとこたえなきゃ』 と思います」(40代・女性)

世の中を少し良くすることへの参画意識
「やはり自分の意見を伝えて、世の中を良くしていくのがベースで、ポイント以外の物を得られるのがアンケートだなとひしひし感じています」(30代・女性)
「仕事関係のアンケート以外では消費者として、ブランドに自分の考えを伝えて、より良い製品作りに役立ててほしいと考えます」(60代・女性)

といった内的報酬によって動いていました。
興味深いのは、こうした体験を得られた人ほど、「回答の質が高く」「継続参加意欲も高い」という点です。
つまり、リサーチを「価値共創の体験」として受け取れている人たちは、自然と持続可能な存在になっているのです。

Qあなたが回答した結果が「商品開発にどう活かされたか」や「企業がどう受け止めたか」が後からフィードバックされるとしたら、アンケート協力へのモチベーション(やる気)は変わりそうですか?(N=289) コミュニケーション層:n=60, 作業層:n=71, 労働層:n=132

回答者は、軽視される存在ではない

一方で、いわゆる「ポイ活・作業層」と呼ばれる人たちからは、こんな声も多く聞かれました。

時間と報酬が釣り合わない
「一生懸命答えて報酬が1ポイントだったりするとモチベーションが下がる」(40代・女性)
「内容の濃さや質問数やかかる時間に比べて、どんどんポイントとの釣り合いが取れなくなってきている。情報を求めてる企業と情報の安価さにギャップを感じる」(30代・男性)

UI/UXが悪く、配慮を感じない
「1つのアンケートで小さい表のような枠の中にポチポチ該当する項目を押していく。スマホだとスクロールすると項目が消えてしまい、何を答えるんだっけ?となる。とっても利用しづらい」(50代・女性)
「主語が明確でなく、回答者自身の事なのか家族全体での事なのか分からない。回答フォームや内容の質が悪くなった」(50代・女性)

最後に除外されても、何の説明もない
「生年月日や性別など基本的なことをさんざん聞いた上で、『あなたはこのアンケートの対象者ではありません』と表示され、何ももらえないパターン」(50代・男性)
「同じような事を聞いてきたり、引っかけ問題で回答者側を試したり。これ、真剣に答えたけど本当に欲しい情報なのかな、役に立つのかなと疑ってしまう」(30代・男性)

ここで重要なのは、彼らが「お金しか興味がない人たち」なのではない、という点です。
彼らは単に、「金銭以外の価値を、これまで提示されてこなかった」だけなのかもしれません。
実際、企業からのフィードバックや結果共有があるなら「もっと前向きに参加したい」と答える人は、作業層の中にも多く存在していました。

Qあなたが回答した結果が「商品開発にどう活かされたか」や「企業がどう受け止めたか」が後からフィードバックされるとしたら、アンケート協力へのモチベーション(やる気)は変わりそうですか?ミュニケーション層:n=60, 作業層:n=71, 労働層:n=132

持続可能なリサーチとは、「仕組み」の話である

10 Inc.が考える持続可能なリサーチとは、「回答者を疑い、管理する仕組みを高度化すること」だけではありません。

  • 自分の声が届いたと実感できること
  • 企業や社会とつながっていると感じられること
  • 参加そのものが、少し楽しい体験であること

こうした要素を、精神論ではなく仕組みとして実装することです。
 
リサーチを「データ回収の工程」から「価値を共に創る体験」へ転換していくこと。それこそが、回答者を使い捨てにしない、持続可能なリサーチエコシステムにつながると私たちは考えています。