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消費者は好きな企業やブランドとの価値共創を求めている!? 

2025.4.23

こんにちは、10 Inc.で主にMROC(オンラインコミュニティ)調査を担当している田中です。 
  
皆さんは、2024年1月に公益社団法人日本マーケティング協会が、実に34年ぶりにマーケティングの定義を刷新したことをご存知でしょうか。今回の改定により、マーケティングの主体は企業に限らず個人も含まれるようになりました。また、マーケティングとは「顧客や社会と共に価値を創造し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想やプロセス」であると再定義されました。このプロセスの中には、価値共創も含まれます。 
弊社では、価値共創を「企業やブランドが一方的に価値を提供し、顧客が受け取るという従来の考え方とは異なり、企業と顧客が協同して新しい商品・サービスを創り上げたり、企業と顧客、または顧客同士が交流を通じて関係性を築いていくプロセス」であると定義しています。 
今回は、この価値共創の概念について、実際に消費者の意見を伺いました。 

【調査概要】 
 実査機関:自主調査(10 Inc.) 
 調査手法:オンラインコミュニティ調査(MROC) 
 対象地域:全国 
 調査期間:2025年2月19日(水) ~ 2025年2月25日(火) 
 調査対象者: 20~60代・217名(男性69名:女性148名) 

好き/ファンであるブランドや企業の存在 

好き/ファンであるブランドや企業はあなたにとってどんな存在? 

自身が好き/ファンであるブランドや企業を思い浮かべてもらい、それらが自身とってどのような存在かを尋ねたところ、全体の40%が「愛着を感じる存在」と回答しました。さらに、「愛着を感じる存在」に加え、「一生のパートナー」や「かけがえのない存在」と答えた人を合わせると全体の75%に達し、消費者は自身が好き/ファンであるブランドや企業に対して心理的距離が近く、強いつながりを感じている傾向が見られました。 

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コメントの抜粋 

サンリオは愛着を感じる存在です。昔からサンリオキャラクター全般が好きで、ぬいぐるみやグッズをたくさん持っていました。幼少期は九州に住んでいたので、大分にあるハーモニーランドに行きポムポムプリンに手を引いてもらいながら園内を周ったという話を親から聞きました。きっとその時の記憶も愛着を感じる理由の一つなのだと思います。 

20代女性 

パタゴニアはかけがえのない存在です。夫にすすめられ、直営店で自分も服を買ったところとても着やすいし、機能性に優れていて、デザインも良く、アウトドアの時だけでなく、職場にも着ていけるようなおしゃれさがあってファンになりました。また、パタゴニアは着ない服は買わないでくださいという理念を持っていて、多くの服を買うのではなく、必要な分だけを買う。また着ない服はお店で回収したり、服が傷んだ場合はブランドで修理をしてくれるとか、無料で修理してくれるイベント等も店舗で開催していたりして、そういう精神がすばらしいなと思い、好きになりました。 

40代女性 

サントリーは愛着を感じる存在です。各地へ旅行へ行く際に、サントリーさんの工場見学がある事が多く参加している内にファンになりました美味しい食品製造だけでなく、自然を大切に保護、生活文化の支援など会社の理念も素晴らしいと感じます。 

60代女性 

価値共創の潜在的ニーズの大きさ 

価値共創への認知度や関心度合いは? 

続いて、価値共創についての認知度を尋ねたところ、「内容までよく知っている」と回答した人は7%にとどまり、認知度は低い結果となりました。しかし、価値共創の概念を提示した上で、関心度合を尋ねたところ、80%以上の人が価値共創に対して関心を示しました。特に、好き/ファンである企業やブランドを「一生のパートナー」や「かけがえのない存在」と感じているなど、企業やブランドとの心理的距離が近い人ほど、価値共創への関心が高まる傾向が見られました。 

提示した価値共創の概念(10 Inc.作成) 
「価値共創」とは、企業やブランドが一方的に価値を提供し、顧客が受け取るという従来の考え方とは異なり、企業と顧客が協同して新しい商品・サービスを創り上げたり、企業と顧客、または顧客同士が交流を通じて関係性を築いていくプロセスを指します。 

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価値共創への関心事由は? 

では、消費者は、具体的に価値共創に対して、どのような関心を持っているのでしょうか。 
価値共創は、共創の場や交流といったプロセスを通じて、個人・社会・企業の三方よしを実現することが期待されています。さらに、価値共創のプロセスでは共感や想像力が育まれる点に魅力を感じている人も多く、プロセスそのものが一つの価値として捉えられているとも言えます。 

【価値共創への期待】 

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コメントの抜粋 

価値共創はすごく良い言葉だなと感じました。企業とは、適度な距離も必要ですが、お互いを思い、感じ合いながら商品を買うことは、非常に大切な価値観で、日本にこれから根づいて欲しい考えだなと思いました。 

30代女性 

今の時代は、企業と消費者のかけがえのない繋がりが大事だなと思います。小さな発見を企業に伝えることで自分だけでなく、たくさんの人が使う時に便利で楽になったり出来るのではないかなと思います。良い関係性というものに凄く興味があります。 

30代女性 

多様性の時代においてとてもふさわしいと感じました。ありとあらゆる可能性があると感じます。協力し合うことでより豊かな暮らしが期待できると思います。 

40代男性 

需要に対するサービスの供給という一元的な関係ではなく、消費者も企業もどちらも社会の中における共同体の一部として共生する関係であった方が社会がうまく成り立つのではないかと思うから。 

40代男性 

たくさんのユーザーがいるので、使い方は千差万別であり、答えはないと思っています。様々な使い方の中から、良い商品・サービスが生まれるのが楽しそうです。 

40代男性 

一方で、一部ではありますが、これまで通りの企業との関係性を望む人や、負担の大きさ、自身の能力への不安から、価値共創に主体的に関わる意欲を持てない人もいるのも事実です。 

【価値共創への懸念】 

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コメントの抜粋 

興味はあるが、なかなか時間が取れないから、どこまでできるかわからない。 

50代女性 

自分がその商品を使う生活者の代表になるということだと思うので、荷が重いから。 

30代女性 

協同で、と言っても最終的には企業が決定権を持っているのだから生活者の意見は反映されないと思っている。 

40代男性 

価値共創への関わり方 

価値共創で好きな企業やブランドと、どのような関わり方をしたい? 

自身が好き/ファンである企業やブランドが価値共創を行う場合、どのように関わりたいかを尋ねたところ、全体の70%は、「アンケートに回答する」と答えました。これは、想像しやすく参加のハードルが低いためと考えられます。一方で、注目すべきは、40%以上もの人が「商品やサービスの共同開発」「イベントやワークショップへの参加」「コミュニティでの交流」などを挙げており、好きな企業やブランドとの関係性を深めたり、双方向での交流に関心を持っていることがわかりました。 

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コメント抜粋 

オンラインコミュニティなどで商品のよいところや改善点などを伝えてその活動で独自のポイントがもらえたりする企業もあるので、そういう活動ならしたいです。 

40代女性 

私は今までパタゴニアというブランドが好きで、そのブランドの理念に従い、買いたいだけで何着もそのブランドの服を買うのではなく、長く着れそうなものを必要な分買うとかブランドがやっているリペアイベントに参加する等していましたが、こちらからブランドに対して積極的な働きかけをしたことはありませんでした。私自身もオンラインコミュニティやSNSでつながったりして、ブランドに対して、以前やっていたこういうイベントをまたやってほしいとか、自分からこういうイベントの開催を検討して欲しいなどという形でかかわっていけたらいいなと思います。 

40代女性 

企業が主体で開催しているファンコミュニティへ参加したり、ファンミーティングに足を運んで、社員の方と積極的にコミュニケーションを取ったり、一消費者としての意見を伝えたり、SNS上で推し企業の製品のことを投稿するなどして価値共創していきたいです 

30代女性 

自分によりあった商品にできるのであれば、積極的に意見などを伝えてサービスやものづくりに参加したいと思います。例えば、開発者と対面で意見交換できるなど、自分のフィードバックを直接伝えられる場があれば良いかなと思います。 

30代女性 

まとめ 

価値共創の具体的な内容まで知っている人はまだ少ないものの、その概念を知ることで8割以上の人が関心を示しました。また、価値共創が個人・企業・社会にメリットをもたらすことに加え、共創の場や交流を通じて思いやりや共感が育まれるなど、プロセス自体に価値を感じていることも明らかになりました。今後の情報提供やきっかけ次第では、価値共創が急速に広がる可能性があります。 
さらに、一部のコアなファンに限らず、全体の4割以上の人が好きな企業/ブランドとより深いつながりを求めていることから、企業側からの一方的な発信だけでなく、双方向の関わりがこれまで以上に重要になってきます。 
従来のマーケティングでは、商品開発や販売がゴールとされてきましたが、価値共創においてはプロセスこそが重要視されるべきです。プロセスを大切にすることで、従来にはなかった新たな価値が生まれ、他社との差別化につながる可能性が示唆されました。それに伴い、今後は共創型リサーチが求められるのではないかと、10 Inc.は考えています。共創型リサーチについては、また改めてご紹介できればと思います。 
本記事が、皆さまにとってマーケティングの定義を見直すきっかけとなりましたら幸いです。